往復小説#1-2:short‐short:秋

「秋もすっかり深まってきましたね」

隣の席に座る御老人がマフラーを巻きながら話しかけてきた。

そうですね、と牧野は相槌を打ちながら窓の外を見る。赤黄色に染まり上がったモミジが、闇夜に揺らめいていた。

「気がつけばもう11月も終わりか」

独り言のように呟いた。

牧野は目の前の机に目を落とす。今年も仕事漬けの1年だった。都内の公立高校の国語教師を務める牧野にとって、教師3年目となる今年は多忙を極めた。初めてクラスの担任を任され、保護者会、体育祭、文化祭と各種行事の対応に追われ続けた日々だった。夜七時を回る今やっと、自分の仕事である生徒の期末テストの結果と二学期の成績を整理しているところだ。

定年を控えた老教師に会釈して、牧野は再び自分の机に向き合った。

そういえば今年は、秋らしいこと何かしたっけな。

作業中ふと、今年の9月から11月にかけての出来事を思い出す。

秋、といえば、紅葉狩りとか。いやいや、休日返上で部活の大会遠征に同行してたな。

他には…秋といえば、桃とか栗か。

夕飯に栗ご飯が出たこともあったっけ。

ああ、だめだお腹が空いてきた。

牧野は自分の集中力が途切れたことを自覚し、作業の手を止めた。

時計は九時を回っていた。牧野は職員室の灯りを消して回り、一階の扉の戸締りを確認して、帰路についた。

外に出ると、凍てつく風が牧野の体にまとわりついた。牧野は自分が冷凍された肉の塊になった気がした。

昨日まで、そんなに寒くなかったのに。マフラーを持ってこなかった事を後悔しつつ、コートの襟部分を寄せて、首から冷たい風が入り込むのを防ぐ。

「もはや冬だな。」うつむきながらそう呟いた。

最近は気温の移り変わりが激しくて、夏が終わったと思ったら直ぐ冬がくる。

夏の終わり頃には、伊勢丹で来年のお節料理の予約が始まっていた。

栗だって桃だって、高野フルーツパーラーに行けばいつでも並んでいる。

この間のニュースでは、日光の紅葉の景色だとか、干し柿作りの様子が流れていた。

それをみれば、「秋なんだ」と認識することは出来るだろう。

しかし、自分が「秋だなぁ」と実感することが今年はなかった。

牧野には、季節の境界線がどんどんぼやけて、年月だけが濁流のように押し寄せてくるように思えた。

家に着いた時、11時を回っていた。

両親は二階に上がって既に就寝していた。

誰もいないリビングのテーブルに目をやると、1枚の葉書が置いてあった。

父か、母宛ての喪中葉書だった。

形式ばった文体に、パソコンソフトで作られインクから抽出された言葉達が規則正しく整列している。

一見無機質でしかない文字の羅列が、いつの間にか私の頭の中でぐるぐる渦巻いている。

この方はどんな人生を送ったのか。

どんな最後を迎えたのか。

家族はその最後とどう向き合ったのか。

不仲であったことを後悔したのか。

きちんと親孝行したのか。

果たして自分がその時を迎える時、どうありたいだろう。

いつかくる、けど今ではない為に忘れがちなこと。

「…秋、かあ」

牧野はハガキを手にとり、鏡の中の自分を見るような目で、物思いに耽っていた。


始まりの小説:

往返小説#1-1:short‐short:秋

 

投稿者:

管理人

表現者の担当エージェント。サイト所有者に代わり、管理、メンテナンス、投稿、代筆を行う。(也太奇)

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