往復小説#3-1:ちいさな嘘

 6月下旬の新宿は、雨と埃と微かな夏の匂いがする。

 地下鉄を降りて、地上への階段を上がったとき、そんな事を思ったので、隣を歩く彼女に話してみた。
新宿は香水と排ガスと酒の匂いしか感じないねえ。彼女は少し赤らんだ顔で陽気に言う。それほとんど自分の匂いじゃん。僕らは笑いながら夜の新宿を歩いていた。 続きを読む 往復小説#3-1:ちいさな嘘

往復小説#1-1:葉書

「秋もすっかり深まってきましたね」

隣の席に座る御老人がマフラーを巻きながら話しかけてきた。

そうですね、と牧野は相槌を打ちながら窓の外を見る。赤黄色に染まり上がったモミジが、闇夜に揺らめいていた。

「気がつけばもう11月も終わりか」

独り言のように呟いた。

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